夜と針

最近読んだ本、漫画、アートについて感想をつづります。

デビルズライン

 デビルズライン   花田陵  1~11巻

 

電子書籍で無料版を読んだら、あまりのおもしろさにはまり、全巻レンタルしてしまいました・・・。とにかく面白くなる要素がてんこ盛りです。バトルアクション、ホラーサスペンス、あとラブがメインでがっつり描かれていて、バランスがいいです。

 

 ネタとしては吸血鬼ものだし、導入部分も見たことある展開なのですが、何というか青年誌でバトルありなのにここまで恋愛メインを持ってくるのが新鮮。

 あと、作者がここでこれを見せたい!というのがとても伝わる見せ方をしています。ここぞというとき、盛り上がった所で時間をとめたシーンの見せ方が上手い!ドキドキしながら一瞬読み手も息を止めてしまう作りで、静止画には見入ってしまいます。

なんというか、主人公と息遣いまで一緒になってしまって、作品世界に引き込まれていくような錯覚を覚えました。

 

 この作品を読み解くキーポイントは、衝動。主人公で吸血鬼の安斎は、事件の関係者のつかさに(以前から張り込みで一方的には見ていたけど)言葉を交わしたその日にディープキス。つかさが忘れられず、一方的に見張りベランダから侵入、ひざだっこ再び抑えきれず舌入れるキス。つきあう?とか好きだとかガンガンせめていきます。ここで読み手がすごく惹かれるのは、安斎の頭が全然行動についていってないこと。

 頭では鬼と人は一緒にいるべきじゃないのが信条で、頭では、やめろやめろと思っているのに、つかさを目にすると体と心が先走っていくのが、読み手にとって堪りません。好意や行動(キス、つかさの家で鍋、プレゼントなど。)が先行していき、せつなさ、ドキドキで苦しいほど。

 

 あと気持ちを言葉で確認しあってないときに、つかさは安斎が撃たれたことに動転しつつも、再び撃たれた時安斎をかばって前に出て怪我をし、安斎は最愛のひとが傷つけられた恐怖と怒りで、瞬間相手を殺す!と変異しました。頭で整理できていない状態なのに、心と体はお互い相手にために自らの命を犠牲にしてもいいと、この早い段階で互いが運命の相手だと確信してしまっています。 

 鬼に変異した上、つかさの顔に流れる血を見た安斎は、自我を失いそうになり、思わずつかさを襲いそうになります。ここでつかさが、安斎に大丈夫かと手を差し伸べるくだりは、つかさの包容力のおおきさにはっとさせられました。安斎は、つかさが無事なこと、襲いかけた鬼の自分を恥ずかしさ、鬼であることの悲しさが入り混じります。

 この段階ですでに、安斎の怒りと、つかさのゆるしが出てきます。巻が進むにつれこのワードは安斎の変異をコントロールする上で重要な条件となります。

 

 とにかくこの安斎とつかさのカップルは、読んでいてほのぼのするんですよね。恋愛自体もバトル要素があると思うんですが、この二人はお互いを大事に思いやっていて嘘や、虚勢、見栄をはらない自然体なので気持ちがいいというか・・・。

 一番ひっくり返ったのが、10巻で安斎とつかさが初めてしようか・・、というとき話し合う場面で、安斎がつかさに

 出血するぐらいなら痛いんじゃないのか と心配してつかさの返しもすごすぎた!

それは仕方がない  という割り切り。

初めてだったら痛いんじゃないのか、と心配する安斎の気遣い、やさしさもすごいし、処女を全く武器にしないつかさの割り切りと器の大きさ!実際は色々思惑やはずかしさで、言語化してお互いに話し合えないと思うのですが、この二人最高だなあ、と思った会話でした。

 

 それからこの漫画、魅力的なキャラがどんどん出てきます。一番やられたのがヨハネス。銀髪ロングの片目がブルーアイ。『ヨルムンガンド』のココ以来、この見た目だけで半分落ちた・・・。

 

 ヨハネスは、鬼の研究、収容する地下施設から抜け出した、安斎の同期です。ファッションがぶかぶかのTシャツに、スゥエットパンツで最初は裸足の病棟施設ルック。なんていうか、かごから抜け出した白い鳥、みたいなイメージを持ちました。生まれた時から人体実験を強いられ、生き延びたヨハネスは状況判断、自己コントロールにたけ、鬼としての自分を理解しています。安斎が陽りの子供なら、ヨハネスは地下から出られなかった闇の子供と、対照的に描かれます。

 

 ただこの人、好きなんだけどどうにも連載中死にそうな気がして仕方がない。実験施設から抜け出したから、二度と施設に戻るのはいやだろうし、生まれたときから人に人でない扱いをされたせいで、人は嫌いではないけど、信用していない。自分の中の鬼をコントロールするため、平常心、状況判断を身に着けたおかげで、衝動も制御してしまう。これでは恋もむずかしいだろうな、と思いました。一番かなしいのが、家族やともだちといったワードがでるたび、空を見上げることです。それらの単語はヨハネスを地上に縛る見えない鎖です。二度と縛られたくない彼は、小さい時からあこがれた空にかえりたそうにみえてしまう・・・。生きるにしろ、死ぬにしろ、ヨハネスにとっての幸せが迎えられますように。

 

 あと、安斎の父親、安斎環もでてきますが、60歳以上のはずなのに若い!

これって画力の問題ではなく、わざとこう描いてる。ということは、血を飲んでいる環は不老フラグ・・・。鬼は人の血飲んだら、傷が治るばかりか、年とらないんじゃ。これ、鬼は今は数が少ないから人から狩られているけど、団結して人を狩って食料としたらえらいことになるのでは・・・。この漫画、だれが味方か敵かわかりずらいし、物語の着地点がどこになるのかまだわかりません。種族や性別のボーダーを超えるんじゃなくて、理解しあおうよ、向かい合おうという面白さ、困難さがこの漫画をどこに導くのか楽しみです。