夜と針

最近読んだ本、漫画、アートについて感想をつづります。

BABY METAL

         BABY METALのユイが脱退した・・・。

ギタリストの藤岡さんが亡くなったことがショックだったのに、ユイが脱退・・・。

この年齢であんなメタルバンドにはまらせてもらったことに、感謝したい。人が美しくきらめく瞬間を見させてもらった。仕事に落ち込んで行きたくないとき、この口ずさめるバンドの曲たちから、どれほど励まされただろう。

 

 このバンドと同時代で、リアルタイムで輝くさまをみられたことに、感謝しかないな・・・。三人がそれぞれ個性があって好きだったし、神ギターも、ベースもドラムスも素晴らしかった。藤岡さんがメキシコライブで、国家のさわりを入れてめちゃくちゃ現地の人が盛り上がったライブ映像とか、イギリスでの衝撃モッシュシーンとか、なんて楽しませてくれたんだろう。たとえ作られたバンドだったとしても、すべてが奇跡みたいにかちっとはまって、とんでもないうねりを世界に引き起こしたグループだった。 

やっぱりさみしいものだな・・・。

俺と彼氏の恋の果て

 俺と彼氏の恋の果て       ナナメグリ

 

 「俺と上司の恋の話」シリーズの最終巻の感想です。

 このシリーズ、王道ではあるのだけれど、最終巻がかなり良くていい意味で心に引っ掛かりました。ゲイの上司と、ノンケの部下がくっついてもだもだするお話、といってしまえばそれまでなんですが。

 部下の高梨が単身赴任で、上司で恋人のちかさんと離ればなれになって、単身赴任先で受け持った部下がシングルマザー。自身も母子家庭で育った高梨はその境遇に共感し、子供と仲良くなります。この話の上手いところは、女性じゃなくて鍵に子供を持ってきたことかと。

 

 一方高校卒業以来、顔を合わせてなかった両親にちかさんは、あってカミングアウトし、二人の血を繋いでいけないことに深く落ち込み、救いを求めて高梨に会いに行きます。そこで見たものは、高梨と手をつなぐ子供と、シングルマザーの部下。まさしく家族の構図でした。

もちろん浮気を疑っているわけではありませんが、高梨の不用意な一言

 

 「あんな子供なら俺もほしかったな。」  

 

その言葉にちかさんは心をえぐられます。高梨、アホだな!ゲイであるちかさんなら、こんな言葉、口が裂けても吐かないでしょう。ゲイであることで苦しんできたちかさんは自分に子孫が残せないことを嫌というほど知ってるからです。ここでゲイのちかさんと、女性も愛せる高梨の溝がはっきりちかさんには見えてしまう・・・。

 そしていつも相手の幸せしか考えないちかさんは、今ここで自分が手を離したら、高梨は普通に家庭持って、幸せになるだろうと高梨に、俺から離れていってもいいと、別れを切り出しました。当然そんな言葉に納得がいかない高梨は、ちかさんに

 

  「ぜったい会いにいくから、待ってて」

 

 約束した日に、部下が倒れて病院送りになってしまい、二人分の仕事も背負った高梨はちかさんとの約束を破ってしまうという・・・。

 もちろん人命第一だからいけなかったのは仕方のないことですが、その代償は二人にとって、とてつもなく大きいものでした。

 約束の時間に現れず、 「ごめん、いけない。」 のメールを見たちかさんはそれが高梨の選択なんだと絶望します。ここでガラケーの電源落として、スマホに買い替えるちかさんの気持ち、ものすごくわかるわ・・・。食事もろくにとらず、仕事にのめり込んで、無理やり笑うちかさんが切ない!なんとか乗り越えようと部屋も引っ越し、そこで高梨からもらったイルカのぬいぐるみも、本意ではなかったにせよ、おいてきます。

 

 あのイルカのぬいぐるみって、ちかさんの恋心そのものだよなあ。だから心をおいてきたちかさんは心と身体がばらばらで見た目からはわかりませんが、壊れてる。

 

 一方高梨も、倒れた部下の仕事も抱えたためちかさんに会いにいくこともできず、連絡しても返事は一切返ってこない・・・。秋になりようやくちかさんの家を尋ねましたが、そこに彼はもういませんでした。仕方なかったとはいえ、高梨!よくもちかさんを苦しめたな!お前ももっと苦しむがよい。

 でも高梨、意外にタフでぶれない。ある意味高梨が人間として成長するのはちかさんのためなんだよね。年明け、本社に戻った高梨はちかさんと再会しますが、ちかさんのこころは凍ったまま。抱きしめられても意味がわからないし、誤解がとけてもうまく高梨と接することができません。

 

 そりゃそうだ、ちかさんは一度高梨に対しての恋心が死んでしまっている。あれは誤解でした、失ったと思ったものが実は失ってませんでしたといわれても・・・。

 人の心って、そう簡単でも器用でもない。誤解が解けたから二人が感動的に抱き合ってハッピーになんてなれない。この漫画で私が秀逸だと思って心打たれたのは、まさしくこの部分なんです。二人はまた一緒に暮らし始めるんだけど、そう簡単にいくわけもない。高梨が一緒に眠ろうと誘っても、暗い目で硬い床のリビングで一人眠るというちかさんがすごく好き・・・。心が死んでしまったちかさんが、いくら高梨に身体だけ抱きしめられても心はないのでよけい虚しいだけ、それがわかってるので一緒に眠るのも無理っていう・・・。

 

 高梨にとっての罰って、離れていた日々より、側にいて大好きな人をものすごく傷つけたことを毎日実感する、この日常なんではないかなあ・・・。

 

 こんなふうに心が死んでしまっているちかさんですが、高梨に寄り添ってもらって水族館のイルカのショーをみたとき、再び心が息を吹き返し始めます。少しずつ心が再生していくさまを、高梨がものすごく愛おしそうに大事にする日々。

 

 子供がいるかいないかじゃなくて、仕事してご飯食べて眠る、そんな日々の積み重ねをこの先だれとすごしたいか、それが恋の果ての答えなんだと高梨にいわれて、ようやく心を取り戻すちかさん。 

 

 この部分は色々考えさせられるなあ・・・。つづく日常を、好きな人と過ごすもよし、一人も良し、動物と暮らすのも又良し。王道の漫画ではあるけれども、いいお話でした。

LAST FRIDAY

 ラスト フライデイ     絵津鼓

 

 なんでこんなにいい作家さん、読まなかったんだろう!そう、いつもの絵がちょっと好みから外れているという理由で、スルーしてきたのに『ナチュラル』でいいと思い、続編の『ナチュラル JAM』を読んだら、これが傑作だったという・・・。

 

 今回はこのラスト フライデイ に限って感想を書きます。とにかくバランスのいい作品、としか言いようがないです。主人公の拓海は近所に住む優しくしてくれる兄のような存在のひとに、淡い恋心を抱いているのですが、じぶんの気持ちをはっきり自覚しないまま、その人が結婚してしまい、それと同時に自分が失恋したことをを知ります。

 

 そうして自分を変えようとイメチェンした時期に出会ったのが、ボーイの欣也くん。この二人は全く違うのに重なる部分があって、お互い人に言えない恋をして、ひっそり失恋してしまっています。それからお互いがお互いをうらやましく思っている。拓海は欣也を年下なのに、かっこよくてスマートで、もてていると思い、欣也は拓海が平和で仲のいい家族のもとでぬくぬくと育ったんだろうと憎らしく思います。

 なのにこの二人が徐々に惹かれあうのは、拓海の純粋で素直なところが欣也の心を打ったからでしょう。欣也にしてみれば拓海は、ペットの掌にのせたハムスターみたいなもの。握りつぶすこともできただろうに、あえて無垢なその存在に心を寄せずにはいられなかった、そこが欣也の優しさです。

 欣也自身は、両親とも不仲で、半分血のつながらない姉と二人で暮らし、その姉に報われない恋心を抱いてしまうという、かなりハードな過去を持っています。高校生で恋しく思う姉の勤めるクラブで、ボーイとして働き、姉が色んな男性に接客するのをまじかで見ているというのは、なかなかに地獄だと。欣也が自分を守るためにあえて心を直視しないで、ごまかして生きていくのは当然だろうなと思いました。

 

 そんなときに出会ったピュアな拓海の存在は、欣也の心にヒットしたんだろうな・・・。拓海は欣也本人を前にして、なんでもできて、完璧な欣也くんになん自分の気持ちはわからないといってしまう、これ、まじで二十歳のセリフかよと愕然とするほど幼いし、その後欣也に俺のことどれだけ知ってるの、と言われ反省するところも、子供なんだけれど、それだけではすまないほど素直で純粋です。

 

 この素直さって、時に人の心を打つほど強いものだったりします。色々ごまかして生きてきた欣也には、このまっすぐさが突き刺さるのでしょう。

 

 この話が妙な味わいを持って読み返しがきくのは、かわいいカップルなのに、二人がひっそり傷をなめあう関係なこと。そしてそれが全く悪いことではなくて、二人で明るいほうへ足をふみだしていくところ。二人の過去の恋はなかなかにハードなものだったけれど、かわいいのに、暗さがあって、そこに周囲のひとのやさしさで上手く包まれているという、奇跡のバランスの作品でした。

 

 

傘を持て

 傘を持て        たうみまゆ

 

 可愛い絵柄とは裏腹に、しっかりヤクザ物です。高校の同級生で、ヤクザの組長の息子として育った城田、優等生の畑中の二人がヤクザの世界を舞台にして、気持ちを確かめ合って駆け落ちするお話です。

 と書いてしまうと三行で終わってしまうのですが、これが味わい深くて面白くていい余韻の残るお話でした。この作家さん、他のお話も読みましたが、どれもおもしろい。作家さんにもよりますが、この作品は面白いけど、他は合わない、という場合もあってこの作家さんは、波長が合うのかどれ読んでもおもしろいと感じました。

 

 この作品の肝となるのが、二人の性格の対比です。ヤクザの息子の城田は、フツーの

人です。ヤクザの息子なのに!このあまりにフツーの城田が極道やらなきゃならない悲哀がたまらないというか・・・。自分の器じゃない役柄を無理やり演じさせられてる感が、上手くでてます。

 駆け落ち先のフランスで、パン屋さんで働いてると、ちょこっとラストに出るのですが、ものすごくはまってる感が・・・。城田というキャラは工場とかで、黙々と働く中産階級がすごく似合うのに、面白いのは作者がヤクザで駆け落ちというアイデアを実行したいがため舞台を用意したのに、キャラにあわず、作者、登場人物に振り回されてる様がいい意味で面白くもあり哀しくもありました。

 

 なんだろう、ちょっと変な感想ではありますが、作者が駆け落ちをさせたいためなのか、城田と畑中というキャラが作者に謀反を起こしているみたいな感じなんです。

 

 一方優等生の畑中は、このヤクザという舞台を嬉々として渡っていきます。ヤクザの息子に生まれついた城田はフツーのちょっとすねたにいちやん、ぐらいなのに対してたぶん普通の家庭に生まれた優等生の畑中は、悪魔の才能を持つ男でした。ぶっちゃけいうなら、悪魔のスパダリですな。ヤクザの才能がない城田を守るために、ばっちり経営を最高学府で学んで城田を立てて守る!このスパダリ加減がもはや作者さんをも振り回している、というか、へんな話、作者さんをも上から見ている感じがする・・・。

 

 なにが切ないって、この悪魔のスパダリ畑中が、フツメンの城田にすべてを捧げてしまっているところでしょうか。

 顔がいいとか、頭がいいとかそんな理由が何一つないところが恋のおそろしさ。一つ挙げるとすれば、高校時代雨のなか、声をあげてもわからないところで泣いていた城田を畑中は目撃した、それは畑中の魂の印画紙に焼き付いて、生涯はなれることはない。それが恋。代わりもきかないし、理由もいらない。

 スパダリ物のおもしろさって、ふつう、もしくは劣る主人公を自分の置き換えて、スパダリが尽くしてくれていい気分になる、というものだと思います。

 でもどうにも感じる城田の居心地の悪さというのは、畑中にこちらの世界に来てほしくない、という願いからきています。それはやっぱり城田も畑中のことが好きだからなんでしょう。高校時代、ヤクザの息子という運命を呪って、絶望的な孤独感のなかにいた城田に、

  「いざとなったら逃げようか。」

といってくれた畑中の言葉は、城田の心のお守りになりました。

そして駆け落ちしたあと、畑中が敬語を使いつつも二人が高校時代の関係に戻っていることが面白かったです。まるで、ヤクザという舞台を降りてやれやれとでもいうみたいに・・・(笑。)

 

GAPS 1~3巻

GAPS 1~3巻  里つばめ

 

 面白い漫画見つけてしまった・・・。正直レビューの高さに惹かれて、一巻のサンプル読んだときは、絵は上手いけど華がなくて地味だな、そしてサンプル部分はあんまりおもしろくなかったので、見過ごしてました。

 

 この作者さん、背景がとても上手いけど、ちょっと人物は華が欠けてるかんじで、導入部分は島耕作的な、サラリーマンのお仕事漫画みたいなんですが、読み進めていくとそこがすごく効いてきます。

 主人公の長谷川は37歳で、見た目フツーの常識人。まじめで部下にも優しく、上からの信頼も厚そうです。もちろん仕事もできるし、やさしくて面倒見がよく、繊細なところもあるきれい好き。最初はほんとにこういう人、いそうだな~というくらいのリアルなオッサン。このリーマンのフツメンのオッサンが、読み進めていくうちにどんどんかわいく見えてくる不思議さ。それはもちろんこの長谷川を、めちゃくちゃ口説く片桐という部下の存在があるからなんですが。

 

 この片桐、30歳で、顔はいいし仕事もできるし、性格もいい高スペックリーマンです。男女問わずモテモテで、会社のなかでは王子扱い。

しかしオフの片桐は本当にひどい!部屋は汚部屋で、ギャンブル好き、女は彼女いるくせに、色々食い散らかしています。一番ひどいのは法的にアウトなこともあっさりやらかします。財布は抜くし、ガラスは割っちゃうし、刃傷沙汰も!

 

 BLでプレイじゃなく、これだけナイフが出てきて不穏な漫画少ないと思います。リーマン物なんだけどな。そんなイケイケの片桐が、フツーのオッサン長谷川を口説きまくる面白さ!

これ、帯のアオリが秀逸で、三巻では

      『雄化するクズ王子×乙女化進む不能姫』

とありますが、ズバリそのとおり!(長谷川さんは現在EDです)

なんていうか、ドラマおっさんずラブを見たあと、この漫画初読みしたせいか、よけいに面白く感じました。話がずれますが、アオリの文章が的確だと、作家さんと編集者さんがいい関係だなと思います。

 

 しかしこんなにスキだらけで、ぐらぐらしてる長谷川さんが、落ちそうで落ちない。そういうじらし漫画なのかと思ってたら、三巻でようやく長谷川さんが、落ちない理由がわかりました。長谷川さん、ほんとにまじめで、けなげで誠実なんです。だから遊びはいや。

 

 そういう長谷川さんを好きになった片桐も、当然それを見抜いていて、三巻で彼女と別れて、ようやく長谷川さんは自分の気持ちを口に出すことができるという・・・。

乙女か!

自宅でクッション抱きながら、片桐のことを想ってみたり、雨宿りのカフェで、嫉妬して着信拒否したり、もー!かわいすぎる長谷川さん。

 

一方、片桐もクズとはいえ王子なので、ガンガン攻める!

 バックハグで、好きですといってみたり、飲み会で寝落ちした長谷川さんをむかえにきたり、同期の女性の別れたダンナに刺されそうな時は、身を挺して助けたり、これだけされて落ちない人っていないよ~。

 

 二巻から三浦レオという28才のかわいい系新キャラもでてきて、話をうまくかき回すトリックスターなんですが、精神年齢は小学生。今まで恋愛に興味なしだったんですが、長谷川と片桐の関係にきづいて、興味津々。長谷川さんにちょっかい出して、無理やりキスしようとするのですが、迫り方が、ほんと小学生・・・。もちろん長谷川さんも明確に拒否。片桐さんのキスは受け入れてたことを知っているので、三浦はここで自分が失恋したことを知ります。

 

 このあと、片桐のいるホテルに、三浦は無理やり長谷川さんをつれていきます。三浦なりに悔しかったので、じゃあ片桐さんへの気持ちを認めてよっていう。

 ホテルへ長谷川さんを呼び出そうとしていたのに、着信拒否された片桐は、ガチギレで、ドアを開けます。ここの片桐は本気で怒っていて、めちゃくちゃこわい!

 三浦もいるなかで、片桐は長谷川さんに迫るんだけど、それが搦めとり方がうまくて、三浦の迫り方がいかに子供かが、対比されておもしろいところでした。

 

 片桐はクズなりに紳士で、めちゃくちゃ口説くけど、最後まで無理やりはしない。ちゃんと、長谷川さんが自分の意志で、手の内にきてくれるのを辛抱づよく待ちます。エライよ。

 一方長谷川さんも、まじめなので片桐が彼女と別れて、本気で自分のことが好きなんだと確信を持てたとき、やっと気持ちを出せるという、誠実なひと。

 

 片桐は見た目イケてて、高スペックだから、いくらでも女性が寄ってくるし、自分から寄って攻めてくる肉食女子は遊ぶにはいいけど、本気で好きになるのは長谷川さん。肉×肉はくどいから、肉×醤油(長谷川さん。笑。)があうよね、やっぱり。

 

   この漫画のしみじみおもしろいところは、一見お仕事漫画かと思われるような硬い絵柄で、全力でBLやってるところや、あと長谷川さんがそのへんにいそうなフツーサラリーマンとして描かれていて、その人が片桐に口説かれて、恥ずかしがる所だろうなと思います。そりゃまあ、ありえないけど37才の枯れ始めたオッサンが、イケイケの部下に全力で口説かれるのも恥ずかしいし、マウントとられるのも恥ずかしい。ときめく自分が恥ずかしい。この恥じらいって、今少女漫画から消え去ろうとしているものじゃないかな。

Dear,クレイジーモンスター

Dear,クレイジーモンスター       motteke

 

  私がこの本の感想を書きたいと思ったのは、面白いけどどうにも引っ掛かりが残ってそれが何なのか、文章化することで読み解きたいと思ったから。

 この作品を読む前に、mottekeさんの最新作、「かわいくない兄貴を喘がす方法」が一話無料で出ていて、ひどいタイトルとアオリだなと思いつつ、読んだらこれが面白くて、ページ数が少ないわりに高いな、と迷った挙句、買って読みました。結果・・・、面白い!しかも内容がしっかりしていて短いのに話の完成度が高い!のに驚いてこの作者さんの他の作品探して読んだのがこちらの「Dear,クレイジーモンスター」。 

 

 この作品、「かわいくない~」に比べて完成度は低いと思うのだけれど、もちろんすごく面白かった!でもそれだけじゃなくて、妙に心に違和感が残って、それが何なのかを考えてみました。

 内容は、弟が兄への暴走兄弟ラブ、といったところなんだけれども、かわいくてポップで明るいタッチ。なのに、やることが色々エグイ。そのギャップが癖になる。

 

 父親は一切出てこず、母親は男の所へ入り浸りで、家族というものは破綻しているけれど、親の違う兄、雪だけが弟の隼人を身近で面倒をみてくれて、愛してくれます。しかしある時を境に雪兄は隼人から距離をとるように・・・。その理由がわからない隼人は、雪兄をおいかけて同じ高校へ進みました。このあたりから隼人の暴走愛が始まっていくわけです。

 隼人の中には、父親は出てこないし、母親も眼中にありません。欲しいのは兄としての雪だけ。この段階では兄弟愛を欲しています。雪兄だけが自分を愛してくれた唯一の家族と思っています。母親は身近にいませんが、隼人が幼い時、ある事を教えました。「本当に欲しい人がいたら、手に入れるためには手段をえらんじゃだめよ。」

 

 純粋な隼人はそれをまっすぐ信じます。兄の部屋に無断で入り、携帯を盗み見て、それをわざわざ元あった兄の部屋ではなく、寝たふりしている自分の枕元におきます。これ、雪に自分のことを警戒してね、これから容赦しないで追い詰めるからという無言のメッセージだと思うんだけれど、雪はそれに気づきません。

 ここから隼人の暴走ぶりがスゴい。雪を凌辱、監禁、雪のセフレを脅して関係を切らせる、人のうちに無断侵入、盗聴、盗撮、雪のセフレに暴行など、おいこら、隼人、すごすぎるだろ・・・。何がこわいって、隼人が自分のやってることに微塵も罪悪感を感じてない!

 他人から見た隼人は、新入生代表を務めるほど、頭脳明晰で、イケメンで社交的で明るいのに、こういうことを躊躇なくやってしまうこわさ。それが幼いころにかけられた母親の言葉のせいだとしてもです。

 素直で明るくて純粋で、お兄ちゃん大好きな弟キャラを突きつめた、この人物造形はとても成功しています。一方、弟で純粋 = 子供 でもあるわけで、相手の気持ちを全く考えません。このへんも私がこの作品に感じた違和感の正体。

 

 ふつう好きなら、相手の気持ちを考えると思うのだけれど隼人は子供なのでそれを一切考えない。雪にむりやりなことをしておいて、逃げ出した雪にラインで 照れてるの? とか書いて送っている。この辺の自分の欲望ばかりが先行していくあたり、愛じゃなくて恋の欲の醜さ、すさまじさを上手く描いてるなあ、と思います。

  

 一方、追いかけられる雪も、魅力的に描かれています。幼いころから守って愛してきた弟に、欲情して恋愛感情を持ってしまった雪は自覚したときから、必死で隼人から距離をとろうとします。こんな自分を知られたくないという保身もあるけど、大事な弟を汚い自分の欲望で汚したくないという、愛があります。

 セフレとセックスしたあと、いつも鎮痛剤が手放せないのは、性欲と気持ちの齟齬が体に不調をもたらすのでしょう。隼人を大事におもうため、弟として接するものの、恋愛対象としてみているため、ある意味隼人を理想化してみてしまい、弟としての隼人に気づきません。

 隼人は兄を手に入れるため手段をほんとうに選ばないので、自分すらも、雪兄に欲情するように自分をカスタムします。二人は結ばれ、雪兄は隼人に自分を恋愛対象としてみてもらうことで、気持ちが成就するのですが、隼人は弟としての自分に気づいてもらえないせいで、満たされません。隼人が雪兄にふりむいてもらうため、雪に合わせているようにも見えます。

こう書いていると、ひどいことしてる隼人がもはや不憫に思えてくる不思議。

 

 雪はほんとうに魔性だなあ。隼人への欲望を忘れるためとはいえ、多くの人間と関係を持つし、大事な友人でセフレでもある田村にも愛されているのに、好きなのは隼人だけ。自分を追いかけさせることで、ノンケの弟に兄を、恋愛対象として求めさせることに成功するスゴイ人。

 mottekeさんの話が面白いのは、ストーリーがしっかり詰まっているからだと思ってたけれど、こういう人物造形がすごくしっかりしているからでもあるんだな・・・。

 

 最終話で、隼人が陰で何をしていたかに気づいた雪は、再び隼人と距離をおこうとしますが、ここでの隼人の壊れっぷりがものすごくかわいい。兄が求める恋人としての自分をかなぐりすてて、うわーん!て泣いてでてきたのはお兄ちゃん、いかないで~!という小さい子供のようなわがままな自分。雪はそんな姿を見せられたことで、兄弟愛を欲しがるさびしがりやの弟としての隼人にやっと気づきます。

 

 思ってたより、バカだった・・・。隼人が社交的で、ひとりでも自分よりうまく生きていける、そうおもって理想化していた隼人の形が崩れます。こうして、ほうっておけないバカでかわいい弟のすがたを見つけたことで、雪は兄としての自分も取り戻します。

 

 恋愛だけだといつか冷めてしまうかもしれないし、男同士だと繋ぎ止めるものがないので(子供とか)そこを強固にしたいために兄弟愛をプラスしている。

 愛にもいろんな形があって、兄弟愛、性欲も含めた恋、相手のことを思いやる愛、さまざまな角度から愛という名の怪物を描いている作品でした。

 

 やっぱり、この作品への違和感の正体は、恋愛の形をとりつつも、兄弟愛を描いた作品だったからじゃないのかな。

 

dele   ディーリー

 dele      ディーリー     本多孝好

 

 

 以前から好きで読んでいた作家さんだったのだけれど、しばらく遠ざかっていました。なぜ、再び手に取ったかというと、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ映画祭で、最高賞のパルムドールを獲ったからです。

 で、なぜそれが本多孝好さんと繋がるのかといえば、『万引き家族』のあらすじを見て、あ、これ原作本多さんの at  home  だと思ったからです。しかし、原作見たらそれも是枝監督の名前で、え?と思いました。もちろん、年金問題や、犯罪が万引きだという事など、全然違うと言われればそれまでなんですが、仲良さそうな家族が実はみんな赤の他人だとか、犯罪でつながってるとか、虐待されてる子供を引き取ったり、アイデア自体はそっくりなんだよな・・・。ちょっともやもやしたので、久々に本多さんのコーナーみたら、読んでいない作品がいくつかでていたので、読了。

 なんだか、ちょっと遠ざかっていた友人に再びあえた、みたいな感じでした。

このひとの作品は、作家が自分の産み出した主人公に愛のあるまなざしがあって、いろいろ事件が起こったりするけれど、仄明るいあたたかな読了感が好きでした。それが「魔術師の視点」という作品で、主人公達に対する愛が感じられず、え、これほんとに本多さん?と確認したくらい、読後感が悪くて、それ以降遠ざかっていたという。 

 

 このdeleという作品、以前のようなあたたかくて、ちょっとせつない作品で、三浦しおんの「まほろ駅前便利軒」みたいな、男ふたりで事件解決、的な作品です。依頼があったデータを、依頼者の死後消すという仕事なのですが、その会社をやってる圭司は車いす生活で、なぜそうなったのか、生まれつきのものか、後天的なものなのか触れられません。本人自体はスポーツやったり、頭もいいし、割とストイックな性格です。

 

 一方圭司にやとわれた祐太朗は、フットワークは軽いし、状況に応じて自分をうまく場になじませる明るい性格ですが、以前妹を亡くしていて、それが彼に暗い影を落としています。孤独なふたりが事件を通して、おたがいのセンシティブな部分に少しずつ手をさしのべようとしているところが、やっぱりいい!本多さん、と思わせてくれた作品です。

 

 あと、やっぱりデータとか、記憶というものを、自分の死後どうしたいのか?というのがメインのテーマです。いまやデバイスに残されたデータは、消さないかぎりいつまでも残るし、下手したら拡散して、消すこと自体難しくなることもあります。消したいほどのデータというのは、やっぱり生前の本人を構成する重要な鍵でもあるので、周囲や家族は見たいものですよね。その秘密を依頼どうり消去したい圭司と、家族の思いをしってしまって、明かしたい祐太朗。その二人の基本的な考えの違いがラストでは鮮明になります。 

 

 妹を亡くしたけれど、覚えておくことで、妹が生きた証を証明したい祐太朗。でも、みんながみんな自分の死後、だれかの記憶に残っていたいと思うわけではありません。

 以前何かで、本当の死は、だれの記憶にも残っていないことだ、それが社会的な死だ、と読んだ記憶があります。なるほど、とは思いましたが、長いスパン、百年、千年、万年、といったものさしでみたら、個人の死も社会的な死もみんな死ぬし、それは遅いか早いかの違いくらいしかないのでは、とも思いました。