夜と針

最近読んだ本、漫画、アートについて感想をつづります。

LAST FRIDAY

 ラスト フライデイ     絵津鼓

 

 なんでこんなにいい作家さん、読まなかったんだろう!そう、いつもの絵がちょっと好みから外れているという理由で、スルーしてきたのに『ナチュラル』でいいと思い、続編の『ナチュラル JAM』を読んだら、これが傑作だったという・・・。

 

 今回はこのラスト フライデイ に限って感想を書きます。とにかくバランスのいい作品、としか言いようがないです。主人公の拓海は近所に住む優しくしてくれる兄のような存在のひとに、淡い恋心を抱いているのですが、じぶんの気持ちをはっきり自覚しないまま、その人が結婚してしまい、それと同時に自分が失恋したことをを知ります。

 

 そうして自分を変えようとイメチェンした時期に出会ったのが、ボーイの欣也くん。この二人は全く違うのに重なる部分があって、お互い人に言えない恋をして、ひっそり失恋してしまっています。それからお互いがお互いをうらやましく思っている。拓海は欣也を年下なのに、かっこよくてスマートで、もてていると思い、欣也は拓海が平和で仲のいい家族のもとでぬくぬくと育ったんだろうと憎らしく思います。

 なのにこの二人が徐々に惹かれあうのは、拓海の純粋で素直なところが欣也の心を打ったからでしょう。欣也にしてみれば拓海は、ペットの掌にのせたハムスターみたいなもの。握りつぶすこともできただろうに、あえて無垢なその存在に心を寄せずにはいられなかった、そこが欣也の優しさです。

 欣也自身は、両親とも不仲で、半分血のつながらない姉と二人で暮らし、その姉に報われない恋心を抱いてしまうという、かなりハードな過去を持っています。高校生で恋しく思う姉の勤めるクラブで、ボーイとして働き、姉が色んな男性に接客するのをまじかで見ているというのは、なかなかに地獄だと。欣也が自分を守るためにあえて心を直視しないで、ごまかして生きていくのは当然だろうなと思いました。

 

 そんなときに出会ったピュアな拓海の存在は、欣也の心にヒットしたんだろうな・・・。拓海は欣也本人を前にして、なんでもできて、完璧な欣也くんになん自分の気持ちはわからないといってしまう、これ、まじで二十歳のセリフかよと愕然とするほど幼いし、その後欣也に俺のことどれだけ知ってるの、と言われ反省するところも、子供なんだけれど、それだけではすまないほど素直で純粋です。

 

 この素直さって、時に人の心を打つほど強いものだったりします。色々ごまかして生きてきた欣也には、このまっすぐさが突き刺さるのでしょう。

 

 この話が妙な味わいを持って読み返しがきくのは、かわいいカップルなのに、二人がひっそり傷をなめあう関係なこと。そしてそれが全く悪いことではなくて、二人で明るいほうへ足をふみだしていくところ。二人の過去の恋はなかなかにハードなものだったけれど、かわいいのに、暗さがあって、そこに周囲のひとのやさしさで上手く包まれているという、奇跡のバランスの作品でした。