夜と針

最近読んだ本、漫画、アートについて感想をつづります。

スニーキーレッド

  スニーキーレッド    たなと

 

 電子書籍で買ったら、面白くて何度も読み返しました。何度もの読み返しに堪える作品だし、読み返さないとわからない部分も多くて、いろいろ考えを巡らせばするほど面白い、いい作品でした。

 二巻で完結しているのですが、最初と最後では、ハルの印象がこれでもかというぐらい違います。暴力でつながるBLというのがざっくりしたくくりです。 

 最初の一、二話読んだ感じだと、ハルがフリーターのミサキに因縁をつけて、とにかく暴力的でキレやすく、見た目も金髪で唇の下にもピアスなど、好きになれないキャラクター、が第一印象。

 

 一方ミサキは、見た目ふつうですが、ハルに殴られたことで、痛みを快感にかんじてしまって、しかも殴るハルの狂気を孕んだ眼付に惚れてしまう。色々このミサキにはツッコミどころがいっぱいなのですが、私がいままで読んできた小説にも漫画にもこんなによくわからない主人公はいなかったかもしれない・・・。

 未必の人っていうのか、無意識下で色々動くので、本人自体が自分がなにを意味してやっているのかわかってないし、あとで自分の行動の意味にきづいて反省したりするけど、やったあとなので遅いっていう・・・。読者にも心情を語るし、セリフや考えも示されるのだけど、素直そうにみえて、無意識にやらかすので、読者にもこのミサキが何を考えてこの行動しているのかわからず、あとでミサキが反省するとき、あ、こういう意味ってわかるという、それ以外はすごくにおわされるし、推測をさせらるという、読者すら引きずり回すエライ人物造形になってます。

 ハルは勘がいいし、言語化する能力もあるので、なんなら当人のミサキよりはやくミサキの行動の意味を理解してしまう。ミサキがマゾで、わざわざ殴られにきて、快感を覚えてしまっていることも、あっさり暴くし、ハルがミサキ以外の人間に暴力をふるったことに嫉妬して、わざと別のヤンキーに殴らせるという荒業も、わざとやっただろうと、ミサキを問い詰めたりします。

 話が進むにつれ、暴力的な印象しかなかったハルもどんどん印象がかわってきます。おもちゃにしていたミサキが、年上だとわかった時点でさんづけで呼ぶし、食事をごちそうになったらきちんと礼をいったり、実は高学歴とか、オセロの黒が白にひっくりかえっていくよう。しかもこの子、暴力的なのに真面目なんだな。まったく自分に甘くない。それが後々自分の首をしめていくのですが。 

 

 この話のおもしろさは、一話ごとに二人の関係性が変わっていくこと。最初ハルはミサキをサンドバッグ代わりに殴つておもちゃにしているし、ミサキは殴られ快感を覚えたことで、マゾなことを自覚します。ハルはミサキがマゾなことにきづいて、暴力的に犯すようになりますが、だんだん情がわいてきてミサキを痛めつけることができなくなってしまい、逢うのを止めてしまいます。 

 しかし、ミサキがバイトする店で、偶然同僚と笑顔で話すミサキを見つけ、嫉妬する自分に気づきます。暴力でしかつながっていないミサキが自分に笑顔をみせるはずもないのに、自分のおもちゃのはずが、何他人と笑ってやがるんだという・・・。このあたりからハルがどんどんかわいく見えてくる!ハルはミサキの家を訪れ、食事をごちそうになって礼をいって帰る、という行為のなかでミサキが恋人としてアリなのか自分の気持ちを確かめにいきます。 

 ミサキはハルの暴力に快感を覚えているので、ハルが精神的なつながりを求めてきたことに戸惑いますが、受け入れます。二人は関係を深めていきますが、やっぱりいちばんのカタルシスは二巻で就職で追い詰められたハルが、もうミサキを殴れないとぶちまけます。

 ハルはミサキがハルから受ける暴力を快感とすることを知っているので、これはもはや別れを覚悟しての言葉でしょう。対してミサキは間髪いれずに、そのほうがお互いのためにいいと思う!と同意し、ハルのことがすきだし、必要だと伝えます。(え、いまさら?)

 ハルはミサキに精神的に愛されていることを初めて実感して、自分を許します。このあたりはハッとするぐらいハルの気持ちが伝わってきて、感動的。

そのあと、いろいろミサキに甘えるハルがこれでもかというくらいの可愛さ!最初あんなに暴力的で、いやな印象しかなかったハルが読み手のこちらまで180度見方が変わるというたまらなさ!

 

 ハルはミサキにあったことで、人生変わったなと思います。一方最後まで残るミサキの不思議さ。仲のいい家族で育ってトラウマもなく、普通そうにみえるのに、最終的にはハルすら掌でころがすエライひと。しかも本人自覚がないっていう・・・。ハルはミサキと出会って、いろいろ芯の部分から変わったけど、なんかミサキは変わっていない。もちろんマゾだということがハルとの出会いでわかったけど、精神的ななにかがドラスティックに変化した、ということはないんじゃなかろうか。    

 ハルが壊れる・・・というときに初めてハルのことを本気で考えたくらいで、あとはハルのこと考えてるふりして実は自分のことしか考えてない・・・、のに包容力はあるという訳のわからなさ。読めば読むほど、このミサキという人物は不思議でした。