夜と針

最近読んだ本、漫画、アートについて感想をつづります。

dele   ディーリー

 dele      ディーリー     本多孝好

 

 

 以前から好きで読んでいた作家さんだったのだけれど、しばらく遠ざかっていました。なぜ、再び手に取ったかというと、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ映画祭で、最高賞のパルムドールを獲ったからです。

 で、なぜそれが本多孝好さんと繋がるのかといえば、『万引き家族』のあらすじを見て、あ、これ原作本多さんの at  home  だと思ったからです。しかし、原作見たらそれも是枝監督の名前で、え?と思いました。もちろん、年金問題や、犯罪が万引きだという事など、全然違うと言われればそれまでなんですが、仲良さそうな家族が実はみんな赤の他人だとか、犯罪でつながってるとか、虐待されてる子供を引き取ったり、アイデア自体はそっくりなんだよな・・・。ちょっともやもやしたので、久々に本多さんのコーナーみたら、読んでいない作品がいくつかでていたので、読了。

 なんだか、ちょっと遠ざかっていた友人に再びあえた、みたいな感じでした。

このひとの作品は、作家が自分の産み出した主人公に愛のあるまなざしがあって、いろいろ事件が起こったりするけれど、仄明るいあたたかな読了感が好きでした。それが「魔術師の視点」という作品で、主人公達に対する愛が感じられず、え、これほんとに本多さん?と確認したくらい、読後感が悪くて、それ以降遠ざかっていたという。 

 

 このdeleという作品、以前のようなあたたかくて、ちょっとせつない作品で、三浦しおんの「まほろ駅前便利軒」みたいな、男ふたりで事件解決、的な作品です。依頼があったデータを、依頼者の死後消すという仕事なのですが、その会社をやってる圭司は車いす生活で、なぜそうなったのか、生まれつきのものか、後天的なものなのか触れられません。本人自体はスポーツやったり、頭もいいし、割とストイックな性格です。

 

 一方圭司にやとわれた祐太朗は、フットワークは軽いし、状況に応じて自分をうまく場になじませる明るい性格ですが、以前妹を亡くしていて、それが彼に暗い影を落としています。孤独なふたりが事件を通して、おたがいのセンシティブな部分に少しずつ手をさしのべようとしているところが、やっぱりいい!本多さん、と思わせてくれた作品です。

 

 あと、やっぱりデータとか、記憶というものを、自分の死後どうしたいのか?というのがメインのテーマです。いまやデバイスに残されたデータは、消さないかぎりいつまでも残るし、下手したら拡散して、消すこと自体難しくなることもあります。消したいほどのデータというのは、やっぱり生前の本人を構成する重要な鍵でもあるので、周囲や家族は見たいものですよね。その秘密を依頼どうり消去したい圭司と、家族の思いをしってしまって、明かしたい祐太朗。その二人の基本的な考えの違いがラストでは鮮明になります。 

 

 妹を亡くしたけれど、覚えておくことで、妹が生きた証を証明したい祐太朗。でも、みんながみんな自分の死後、だれかの記憶に残っていたいと思うわけではありません。

 以前何かで、本当の死は、だれの記憶にも残っていないことだ、それが社会的な死だ、と読んだ記憶があります。なるほど、とは思いましたが、長いスパン、百年、千年、万年、といったものさしでみたら、個人の死も社会的な死もみんな死ぬし、それは遅いか早いかの違いくらいしかないのでは、とも思いました。